この人の胸はあたたかい。
抱きしめてくれる腕がやさしい。
ふと見上げれば、違うことなく見つめ返してくれる。
──……だから、怖い。
この幸福に終わりが来るかも知れないことが恐ろしい。
誰よりも、何よりもやさしくて、自分を包み込んでくれる人だから。
──それでもきっと、蜜月の終わりは命の終わり。
だから、命ある限りはこの人を愛して、この人の腕の中で暮らしたい。
恋い焦がれる胸の痛みさえ、甘く感じられる。
手を重ね、指を絡めるだけで癒され、口づけひとつで満たされる。
誰かが隣にいることを、こんなにも心地良く感じたことはない。
愛しいというには熱っぽい、けれど恋しいではとても足りない。
恋ではないから揺れないけれど、愛でもないから抱きしめる。
この感情につけられる名など知らないし、きっと必要ない。
他の人間には、感じることのない想いだから。
だから、今はただ、傍に……。
恋い願う『希』 は、
叶えることよりも、抱き続けることの方が難しい、と知ったから────。
END.