明るい日差しの降り注ぐ野原では、天使たちが笑みを浮かべて遊んでいる。
銀髪の天使がふたりと、黒髪の天使がふたり。
銀髪の天使は女の子で、黒髪の天使は男の子だ。
ふわふわとした黒髪の天使が、銀髪の天使たちに声を掛けた。
「あーちゃん、りっちゃん、何してるの?」
四つ子の天使の中で一番のお兄ちゃんであるロンドが訊ねると、下の妹ふたりは声を揃えた。
「「こんにゃくゆびわ!」」
傍で聞いていた、さらさらの黒髪の天使が目を丸くした。
「え、こんにゃく?」
こんなところで? と聡い菫色の瞳を瞬かせたフーガに、妹たちは手の中のものをずいっと差し出して見せた。
そこには、彼の瞳と同じ色の花で作られたちいさな輪っかがあった。
見遣った兄ふたりは、妹たちの作品に「「あぁ」」と納得して微笑んだ。
「「──『婚約指輪』ね」」
こくん、と大きく頷く銀色の頭に、ロンドはにこにこと微笑んだ。
「誰にあげるの?」
「すきなひと!」
「いちばん、すきなひと!」
ふむふむ、と頷いたロンドであった。
「で、それはだぁれ?」
「「──シェラ!!」」
即座に返ってきた名前に、ロンドとフーガは揃って目を細めた。
ファロット一家にとって、その美しい名前は聖域と同義だった。
「「あとパパ!」」
すぐさま続いたそれに、兄たちはくすくすと笑って頷き、妹たちの頭を撫でてやった。
嬉しそうに笑ったアリアとリチェルカーレは、また口を開いた。
「おにいちゃまとおねえちゃまと」
「ロンちゃんとフーちゃんも!」
ほらね、とばかりに、彼女たちの手の中にはたくさんの『婚約指輪』たち。
銀髪の天使たちには、不思議な力がある。
彼女たちの摘んだ花は、ただの水に浸けているだけでも、花屋で売られている切花よりもずっと長持ちする。
何百メートルも離れた場所に四つ葉のクローバーがあるのを感じたりもする。
きっと何かとても素晴らしいものに愛された子たちなのだろう、と言って、両親も、双子の兄姉も、もちろん黒い天使ふたりも、銀色の天使たちをとても大切にした。
四つ子とはいえ、兄ふたりに比べてちいさく生まれてきた妹たち。
母胎には兄ふたりがちいさな妹たちを護るように収まっていたという。
超能力とか、特殊能力とか、彼女たちの力にどのような名前が付こうが彼らには関係なかった。
ただ、一点の曇りもない純粋な心が傷ついてしまわないように、出来る限りのやさしさで包み込んでいた。
──たとえば……。
特別な力ゆえか、アリアとリチェルカーレは人見知りが激しかった。
人の多い場所では怯え、泣いてしまうことも少なくない。
幼稚園に通うのも怖がって、体験入園のときですら片時も兄たちから離れなかった。
人見知りをする子どもでも、しばらくすれば大人数での生活に慣れるものだが、少女たちは違った。
毎日、毎日、愛らしい顔が無残に赤くなるまで泣いているのだ。
ロンドとフーガの報告や本人たちの様子を見て、シェラとヴァンツァーは娘たちの涙の原因がただの人見知りではないと判断した。
けれど理由はよく分からず、首を傾げていたのだ。
子どもたちは四歳になるまで、時々外出する以外はずっと家族の中だけで過ごしていた。
外出したときに泣くことはあっても、子どもがむずかるのはごくごく当たり前のことで、そう気にも留めていなかったのだ。
それを知った若葉色の瞳の音楽家は、少し考えてからこう言った。
「……耳が、特別良いとか……ですかね?」
彼自身、良く聴こえ過ぎる聴力を持って生まれたがために、幼少期は外出のたびに大泣きしていた経験がある。
両親がそこに気づくまでに医療機関で全身くまなく調べられたわけだが、アリアとリチェルカーレもそうなのかも知れない、と。
彼の言うように、『耳』が良いというのは、あながち間違いではなかった。
『耳』だけではなく『眼』も特別製なわけだが、幼い少女たちは人の考えがざわざわとした雑音として聴こえたり、心の中に隠している部分が視えてしまったりする。
たとえ悪い人間ではなかったとしても、ちょっとした不満や非難の声が、少女たちには拡声器を通したように聴こえてしまうのだ。
少女たちの両親は感情の起伏を抑える術など呼吸をするのと同じように身につけていたし、兄や姉は人を貶めるようなことはまずしないし、思わない。
その伴侶たる青年たちも、アリアとリチェルカーレにとってはとても好ましい人格を持ったやさしいお兄さんたちだった。
家の周りも静かで、そこに住む人たちも穏やか──つまり、幼い少女たちにとって耳を塞ぎたくなる雑音など、それまで聴いたこともなかったのだ。
「……ねぇ、シェラ。わたしたちも一緒に面倒見るから、ちびちゃんたち幼稚園に通わせるの、よさない?」
ソナタが心配そうな顔でそう言えば、カノンもその通りだ、と言わんばかりに頷いた。
「ロンドとフーガは通ってもいいだろうけど、でも、離れ離れよりは一緒にいた方がいいと思うんだ」
教育は家で十分だし、社会生活に慣れるのはもう少し大きくなってからでもいい。
学校へ上がる頃になっても人に慣れないようであれば、信頼出来る人間に家庭教師を任せても何ら問題はない。
連邦大学惑星に居住しながらそれを選択するものはほとんどいないが、どの惑星でも富裕な家庭の子女は学校に通わず家庭教師をつけていることも少なくない。
それこそシェラとヴァンツァーはよく知っているが、万民に対する教育制度が確立されておらず、教育は個々の家庭に委ねられている社会では、富裕層や貴族階級における人脈を築くのは社交場においてであった。
「「シェラだけが大変にならないようにするから」」
そう、どこか必死な顔で声を揃えたやさしい双子の子どもたちに、シェラは嬉しそうに微笑んだ。
「私は、全然大変な思いなんてしていないよ。子どもがひとりでもふたりでも、することは同じだもん。──でも、驚きとか、喜びとか、そういう素敵な経験は子どもの数だけ増えていくから」
「「シェラ……」」
「うちの子たちってば、ちょっと信じられないくらいにいい子ばかりだし」
くすくすっと笑ったシェラは、立派に育った我が子たちの頭をゆっくりと撫でてやった。
「カノンたちのときもそうだったけど、今はひと手間で四倍美味しくなる感じ」
だから、大変なんかじゃないんだよ。
そう言って朗らかに笑う大好きな人に、とっくに成人した子どもたちはぎゅーっと抱きついたのだった。
「パパ」
「父さん」
シェラに抱きついたままお伺いを立ててくる子どもたちに、何だかんだいって最終的な決定権を持つ家長は、藍色の瞳をやさしく細めて頷いたのだった。
──そうして、四つ子は六歳になったのだ。
ちいさく生まれてきた少女たちは、成長に関しても同年代の平均よりもややちいさく、ロンドやフーガと一緒にいるところを人が見ると、四つ子ではなく年子か、もう少し歳の離れた兄と妹たちと思われることが多い。
また、上の兄姉もそうだが、まったく外見が同じということがないため、多胎で生まれてきた子どもたちだと思われづらいのだ。
アリアとリチェルカーレの顔立ちはそっくりだったが、髪質が違う。
アリアは父親譲りのふわふわとやわらかな癖っ毛で、リチェルカーレはシェラ似の真っ直ぐさらさらした髪だった。
同様に、ロンドの髪は癖っ毛で、フーガの髪は真っ直ぐだ。
四つ子だとは思われない子どもたちだったが、彼らの両親にはよく似ていた。
美しくやさしいシェラのことはもちろん、意外と子煩悩なヴァンツァーのことも、子どもたちは大好きだった。
どんなときでも、どんなことがあっても、両親と双子の兄姉は自分たちを愛し、護ってくれる。
それを自覚しているロンドとフーガは、護られるばかりではいけない、妹たちのことは必ず自分たちで護るのだと心に誓っていた。
まだ外を出歩くことに慣れない妹たちだったけれど、いつか、甘いお菓子や、綺麗な服を売っている店に一緒に行けたら嬉しい。
もちろん、どちらも素晴らしいものをシェラが作ってくれるのだけれど、きらきらとした綺麗なものは、きっと見ているだけでも心が浮き立つ。
だから、ロンドとフーガは『婚約指輪』をたくさん作っているアリアとリチェルカーレににっこりと微笑んだ。
「「──じゃあ、ぼくたちはアリアとリチェルカーレの分を作るね」」
「それ、なぁに?」
「なぁに?」
とてとて足元にやってきた少女たちに、キニアンは若葉色の瞳をやさしく細めた。
ここは、ファロット邸にある家屋のひとつで、カノンとキニアンが住んでいる家だ。
まだ幼いが、アリアとリチェルカーレはなかなかの健脚だ。
ロンドとフーガほど走るのが得意ではなかったが、数百メートル離れて点在している家屋を渡り歩くくらい難はない。
また、勘の鋭い少女たちは、きちんと目的の人物のいる場所へ辿り着くことが出来る。
そうして、ふたりは大きい兄たちの住む家へとやってきたわけだが、大きい兄と同じくらい好きなお兄さんが、何やら大きな木を抱えているのを見て目を丸くした。
「チェロだよ」
「「──ちぇろ?」」
それはなぁに? と揃って首を傾げる天使たちに、青年は「音楽を奏でる楽器だよ」と教えてやった。
「おんがく?」
「おうたのこと?」
「あぁ、歌もそうだな」
「あーちゃん、おうたうたうの?」
「俺じゃなくて、チェロが歌うんだ」
「ちぇろ? このこ、おうたうたうの?」
興味津々といった感じで大きな瞳を輝かせている少女たちに頷いたキニアンは、弓がぶつからないように少し離れてもらうと、とある曲を奏で始めた。
弦一本で奏でられる、とても美しく、ゆったりと時間が流れるような曲だ。
チェロの低音が、鼓膜と胸を震わせる。
静かに聴き入り、けれど『ほわぁぁぁ』、と頬を紅潮させている様子から、少女たちはこの曲がお気に召したらしいと判断したキニアンは、ふわふわとした銀髪の少女に言ってやった。
「この曲は、『アリア』って言うんだ」
「「──アリア?」」
びっくりしたように真ん丸になる、左右で色の違う瞳。
「おんなじおなまえ?」
「あぁ。綺麗な曲だろう?」
「「きれい!!」」
大好きな人たちの前では感情豊かな少女たちは、見ているだけで幸せになるような笑顔を浮かべた。
「『リチェルカーレ』って曲もあるぞ」
「リチェ?」
首を傾げるのは、自分の名前を呼ばれた少女。
シェラとそっくりな真っ直ぐの銀髪が、肩口からさらりと零れる。
キニアンが奏でるのは、彼がもっとも好む音楽家の手による『六声のリチェルカーレ』──そう、六声。
鍵盤楽器ならまだしも、彼はチェロでそれを演奏して見せた。
幼い少女たちにその技巧の凄まじさは分かるはずもないが、本人は実に楽しそうに笑みすら浮かべて奏でている。
今日の【ラファエル】は、なかなか機嫌が良い。
可愛い天使たちが聴いているから、大天使の名を戴く相棒もやる気を出しているのだろう、とキニアンは思った。
演奏が終わると、ぱちぱちとちいさな手を一生懸命叩き合わせて拍手をくれる少女たちに、キニアンは自然と笑顔になって頭を下げた。
「リチェルカーレと似た曲で、『フーガ』っていうのもあるんだ」
「「──フーちゃんも?」」
びっくり箱のように何でも出てくる魔法の楽器に、アリアとリチェルカーレは大興奮だった。
熱っぽい色違いの視線を受け止めたキニアンは、先ほどと同じく、バッハのフーガ・ハ長調を弾き始めた。
その華麗で荘厳な音に、少女たちは口を開けて圧倒されるばかりである。
「「……きれぇい……」」
ぽかん、とした表情でそれだけ呟く少女たちに、キニアンはくすくすと笑った。
そして、フーガ・ト短調も弾いた。
「これもフーガだ」
「かっこいい!」
「フーちゃん、かっこいい!!」
短調の曲はもしかすると怖がるかも知れないと思ったが、まったくの杞憂であった。
「「あーちゃん、あーちゃん、ロンちゃんもいるの?」」
「──あぁ、『ロンド』ね。もちろん」
頷いた青年が弾いたのは、ベートーヴェン作曲のピアノ曲。
ロンド形式の曲としてはとても有名で、ピアノを習ったことのない人間でもほぼ間違いなく知っている曲だ。
「きれい!」
「たのしい!」
「「──でもちょっとこわ~い!」」
最後の言葉に、「しまった」と少々顔つきを険しくしたキニアンだった。
確かに、この曲は喜びだけを表したものではない。
選曲を誤ったか、と冷や汗をかきそうになった青年だったのだけれど、少女たちは泣いたりするようなことはなく、むしろ笑顔だった。
「すごーい! みんないる!」
「アリアもリチェも、ロンちゃんもフーちゃんも!」
とても嬉しそうにはしゃいでいる少女たちの様子にほっとしたキニアンは、「『カノン』と『ソナタ』だってあるんだぞ」と言った。
「おにいちゃまも?」
「おねえちゃまも?」
先ほどからチェロで弾くようなものではない曲ばかり演奏している青年だったが、ソナタ形式の曲として選んだのはモーツァルトのハ長調。
軽快なタッチが浮き立つような気分にさせてくれる曲だが、ピアノ曲だ。
我ながら、あの快活な友人にぴったりの曲を選んだものだ、とキニアンは自画自賛した。
「次は……『カノン』」
綺麗な曲だよ、と少し照れくさいような気持ちで、澄み切った瞳に告げる。
キニアンはいつだって、どんな曲だって丁寧に大切に弾くけれど、この曲はちょっと特別。
だって、演奏が終わったときにアリアとリチェルカーレはこう言ったのだ。
「「あーちゃんは、おにいちゃまがだいすきなのね!」」
これには面食らったキニアンだけれど、「そうだな」と素直に頷いたのだった。
「「アリアとリチェも、あーちゃんのおんがく、だいすき! きれい!!」」
キニアンは「ありがとう」と言って微笑んだ。
「アリアやリチェルカーレたちの名前は、みんなヴァンツァーがつけたんだ」
「「パパ?」」
「あぁ。ヴァンツァーは音楽が好きで、お前たちにとても綺麗な名前をつけたんだよ」
顔を見合わせて少し考えるような顔つきになった少女たちは、にっこり笑って声を揃えた。
「「──じゃあ、パパはアリアやリチェたちのことがすきなのね!」」
嬉しそうに微笑む少女たちに、「当たり前だろう?」と言ったキニアンは、何だか泣きそうになっている自分に少し驚いた。
そうして、少女たちにせがまれると、チェロを傍らに置いてふたりを膝の上に抱き上げてやった。
ぎゅーっと抱きついてくる少女たちを抱き返しながら思わず本当に涙ぐんでしまい、不思議そうな顔をしたアリアとリチェルカーレに「何でもないよ」と返しながら、目元の雫を拭った。
「「──とりっく・おあ・とりーと!」」
両手をずいっと差し出す少女たちは、黒とオレンジを基調にしたお揃いの魔女っ子の衣装。
ふんわりとしたバルーンタイプのスカートも、かぼちゃパンツも三角帽子も、とてもよく似合っている。
もちろん、背中には【Lu:na】で大人気の『Angel』シリーズお馴染みの天使の羽。
舌っ足らずな口調で頬を染め、期待に満ちた表情をしている娘たちに、ヴァンツァーはにっこり笑った。
「残念だけどお菓子は持ってないから、悪戯してもらおうかな」
娘たちと同じ視線になるようにしゃがみ込んだ男に、アリアとリチェルカーレは顔を見合わせた。
そして、意思の疎通が出来たのか、ひとつ頷くとヴァンツァーに言った。
「「じゃあ、まっきーでおでこに『にく』って──」」
「──シェラ、お菓子!!」
はやーーーーく!! と珍しく焦った様子で娘たちの手にある油性マジック──既にフタが開けられている──をやんわりと、しかし素早く取り上げるヴァンツァー。
声を聞きつけたシェラは、苦笑しながら三人に歩み寄った。
「……意地悪言うからだぞ」
ヴァンツァーを窘めながら「どうぞ」と娘たちに差し出したバスケットの中には、マシュマロ、クッキー、マフィンにマドレーヌまである。
はわわわわぁ~、と瞳をきらっきらさせた可愛らしい魔女たちは、早速マフィンを頬張った。
バナナマフィンは子どもたちのお気に入りである。
その様子にほっとしたらしいヴァンツァーは、ちょっといじけた様子で唇を尖らせた。
「愛らしい子どもたちのする悪戯といえば、頬にキスと相場は決まっている……」
それなのに、どうしてあんなエグい悪戯を、と眉を寄せる。
間違っても純真なアリアとリチェルカーレには思いつかない内容だ。
きっと誰かが吹き込んだに違いない。
「……お前、実は相当夢見がちだよな」
呆れ返ったシェラの言葉も、犯人は誰かと考え込んでいるヴァンツァーの耳には入らなかった。
「──あ、お菓子もらえたんだね」
「「とりっく・おあ・とりーと!!」」
「はい、どうぞ」
魔女っ子ふたりに、彼女たちの顔の大きさくらいあるペロペロキャンディーを渡すのは、細く伸ばした金の髪を背中で結っている長身の青年。
彼の横には、既にキャンディーを舐めているロンドとフーガ。
ちなみに、ロンドは狼男の仮装だが、灰色の耳と尻尾が可愛いわんこにしか見えない。
フーガは吸血鬼なのだが、正装した貴族の令息といった上品な姿である。
「まっきーってゆったよ」
「『にく』ってゆったよ」
きちんと報告をしてくれる義理の妹たちに、ライアンは大きく口を開けて朗らかに笑った。
「んもぅ、パパやっぱり意地悪したのね」
困った人、と眉を下げるソナタにも、アリアとリチェルカーレは『お菓子をもらえる魔法の呪文』を唱えた。
「──えっ?!」
これには目を瞠ったソナタである。
だって、自分たちはふたりでひとつのお菓子を用意していたのだ。
まさか、個別に声を掛けられるとは思っていなかったソナタは焦ってしまった。
「おねえちゃま、おかしないの?」
「おねえちゃまも、まっきーで『にく』?」
「きゃーーー!! 嫌、いや、絶対イヤっ!!」
本当に顔を青くしているソナタ。
父の無駄に麗しい顔に書かれているのはちょっと見てみたい気がしないでもなかったが、自分の身に降りかかるにはあまりにも酷い不幸だった。
「戸棚に何かあったはずだわ! ちょっと待っててね、すぐ持ってくるから!!」
脱兎のごとく駆けていったソナタを見送った子どもたちに、ライアンはにっこり笑ってこう言った。
「お姉ちゃんが戻ってきたら、『肉』の代わりにおでこにちゅーしてあげると喜ぶよ」
お菓子を抱えて戻ってきたソナタに、四つ子は揃ってキスをした。
そうしたら、もらえるお菓子が何倍にも増えたという。
『一番大きいお兄ちゃんの言うことをきくと、お菓子をたくさんもらえる』
というジンクスが四つ子の中で確固としたものになったのは、この頃からであった。
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