セットしたアラームが鳴っても、すーすーと健やかな寝息を立てて眠っている美貌の男。
スヌーズ機能はここぞとばかりに効果を発揮し、すでに三回も寝室にその音を鳴り響かせている。

──なー、なー

目覚ましが鳴っても起きない飼い主に焦れたのか、『さっさとこの煩い機械を止めろ!』と黒猫が青年の頬を叩く。

「……ん……あと、一時間だけ……」

ほとんど夢の中から寝惚けた様子で呟く青年に、ビアンカは『冗談じゃないわっ!』と抗議の声を上げた。
起きなくてもいいからとりあえず止めなさいよ! とばかりにペシペシ叩いているが、爪は出さない辺り彼女は飼い主を大事にしているらしい。
にゃーにゃー鳴いているとはいえ、仔猫の声は細い。
爪も出さない肉球でぷにぷに叩かれても、痛くもなんともない。
幸せそうな顔で眠っているヴァンツァーだったが、次の瞬間跳ね起きた。
──『ゴッドファーザーのテーマ』が、寝室に鳴り響く。
携帯の着信音だが、驚異的な瞬発力を見せつけたヴァンツァーは流れる冷や汗と跳ね踊る心臓を無視して通話ボタンを押した。

『おはよう』
「……おはよう、ございます」
『その声だと、まだ寝ていたね?』
「……おかげですっかり目覚めました」
『そう、それは良かった。一時間後に迎えに行くから、支度を済ませておくんだよ?』
「……はい」

それだけの会話で電話は切れたわけだが、もう、朝──といっても昼だが──からぐったりしてしまったヴァンツァーだ。
ベッドの上で深くため息を零し、身体を伸ばすと見上げてくる仔猫の額を撫でてやる。

「ご飯にしような」

──なー

それを待ってたのよ、と言わんばかりに目を細めた仔猫に、ヴァンツァーはくすっと笑った。
クローゼットの中から適当にシャツとジーンズを引っ張り出し、リビングへ向かって窓を開ける。
冷たい冬の風が流れ込んでくるが、目覚めるにはちょうどいい。

「まだ外に出ちゃダメだぞ。ご飯食べてからな」

──んなー

おとなしく後をついてくるお姫様のために、まずは缶詰缶詰、とキッチンを漁る。
ほとんど家でものを食べることはないからシンクに洗い物の山、という事態は回避されていたが、数回訪問している隣人の家と比べると同じひとり暮らしなのに物が溢れすぎているな、とは思う。
それも無視して冷蔵庫を開け、「うわ」と呟いた。

「ごめん、ビアンカ。今日はミルクなしだ」

──んなー、んなー

「ごめん、って。これ飲んだらお腹壊しちゃうよ」

苦笑してパックの中身をシンクに開けて水で流す。
適当な皿に缶詰を開けてやり、深めの皿に水を入れてリビングへ移動する。
そういえば、ペット用の食器を買ってやらないといけないな、と思っていたのだが、まぁ、いいか、とも思う。
それよりも大事なのは、缶詰を切らさないようにすることだ。
こんなにちいさな身体なのにひと缶ペロッと食べてしまうのだから、その食欲には恐れ入る。

「いい子で食べてろよ」

言い置いて、バスルームへ向かう。
シャワーを浴びて洗面所の鏡を覗く。
顔を洗うたびに、髭の生えない体質で良かった、と思う。
その分寝坊出来るし、自分で髭を剃ったら「商売道具に傷をつけるな」とマネージャーに激怒されるに違いない。
歯磨きと洗顔、着替えを済ませてリビングへ戻ると、皿はすでに空になっていたが、リビング自体ももぬけの空だった。

「あ~あ」

行き先は分かっているから、ヴァンツァーはくすくす笑ってベランダに出た。

「ビアンカー?」

衝立越しに隣を見ると、黒猫が窓を見上げて座っている。

「ビアンカ? どうした?」

視線を上げて、おや、と思った。
カーテンが閉まっている。
この時間まで寝ているということだろうか。
それとも、出かけているのか。
いづれにしろ、家主の不在を悟ったビアンカは、項垂れた様子で衝立の隙間から飼い主の元へと戻ってきた。

「……残念だったね」

──……なー……

幾分鳴き声もちいさい気がして、ヴァンツァーは仔猫を抱き上げて撫でてやった。

「また今度にしよう、な?」

すりすり、と頭を擦りつけてくる仔猫に、ヴァンツァーは軽くため息を吐いた。
怒ったり、笑ったり、赤くなったり忙しくて、抜群に料理の上手な隣人は、当然のことながらいつもいるわけではないのだ。

「……またにしような」

もう一度、言い聞かせるように呟いて部屋の中に入る。
そうこうするうちに、マネージャーから『あと十分』という簡潔な内容のメールが届き、身支度を整えてマンションの入り口へと向かったのである。


宿のフロントによれば、今日の宿泊客の状態だと露天風呂の貸切は午後八時から十一時の間で五十分間可能だという。
夕飯が午後七時からなので、シェラは九時からが良いと告げた。

「じゃあ、わたしは十時からで」
「え?」
「うん?」
「一緒じゃないんですか?」
「せっかくなんだから、ひとりでのびのび入れた方がいいだろう?」
「まぁ……」
「そういうわけだから、九時からと十時から、連続で予約を頼むよ」
「かしこまりました」

フロントに礼を言って、ふたりは客室の方へと戻って行った。

「九時まで我慢出来るかい?」
「はい?」
「お風呂。埃や砂まみれじゃ、気持ち悪いだろう」
「あぁ……」
「女性たちのいる部屋でシャワーを浴びると気を遣うなら、わたしの部屋のを使うといい」
「いえ、そんな。大丈夫です。何から何まですみません」

頭を下げるシェラに、ヤンは少し困ったような笑みを浮かべた。

「今の若い人は、こういう土いじりみたいなのはあまり好まないのかなぁ」
「──え?」
「わたしは結構好きなんだけどね。こう、砂の中からビー玉を見つけるみたいにわくわくするんだよ」
「あ、分かります! でも、時々犬のフンとか掴んじゃって最悪な気分になったり」
「あはは。きみみたいに綺麗な子でも、そういうのあるんだね」
「ありますよー。昔から、泥だらけになって遊んでましたから。家族の方が心配するくらい」
「へぇ。じゃあ、今回も悪い合宿じゃないのかな」
「はい! 琥珀、結構たくさん採れたんですよ!」
「あぁ、この辺は琥珀の産地だからね。──あ、じゃあいいものをあげよう」

何やらポケットをごそごそやりだしたヤンは、「じゃん」と言って赤ん坊の拳ほどの大きさの石を取り出した。

「何ですか、これ?」
「これも琥珀だよ」
「え、こんなに大きいの?!」
「これでもちいさい方だけれどね。それでも、ここ最近見つけた中では割と大きめのものだったから、研究室に持って行こうと思っていたんだけれど、きみにあげるよ」
「──え?! い、いただけません!!」
「いいの、いいの。わたしはこう見えても『ミラクル・ヤン』なんて呼ばれるくらい運が良くてね。これくらいのものなら、『えいっ』とシャベルで掘ればすぐに見つかるんだ」

ははは、と陽気に笑う教授は、気軽な様子でシェラの手に琥珀の原石を置いた。

「……虫とか入ってたら、研究対象になるんじゃないんですか?」
「そうだねぇ。もし入ってたら、ラッキーだねぇ」

何でもないことのように笑っている教授に、シェラはぺこり、と頭を下げた。

「ありがとうございます」
「いやいや。──残り二日が、有意義なものになるといいね」

ふと笑みをおさめた教授に、シェラは菫色の瞳を丸くした。

「──さ、これから食べきれないごちそうと格闘だ」

うきうき、と顔中に書いた三十男にちいさく笑い、シェラは女性たちのいる部屋へと戻った。
そして、一応の確認としてシャワーを使ってもいいか、と訊ねたら、その場にいた四人から揃って

「「「「どうぞ~」」」」

という返事が満面の笑みとともに返ってきて苦笑した。
その後の夕飯の席では浴衣姿で髪を上げたシェラの色っぽさに食事どころではなくなった男子が多々いたり、夜は夜で、なぜかシェラも交えたガールズトークが展開されたりしたのだった。


「よ~お、どうした色男。浮かない顔しちゃってさ」

今日はまず、事務所で雑誌の取材を受け、夕方からダンスレッスン、夜中のラジオ出演、また事務所に帰ってきて仮眠を取ってスチール撮影、午後は音楽番組の録画となっている。
明後日からは丸二日間缶詰で新曲のレコーディングの予定だが、二日で終わるかどうか。
日程的には二日で終わらせなくてはならないのだが、時間が限られているからといってクオリティの低いものを出すわけにはいかない。
かといって、いつまでもズルズルと続けていても良いことは何もない。
ある程度時間の縛りというものは必要なのだが、それにしても二日は厳しい。
自分が作った曲だ、当然歌うことは出来る。
だが、ただ歌えばいいというだけなら、また、CDを売ることが目的なら、自分はここにはいない。
もし万が一納得のいく音が録れなければ、性格は顔に反比例したマネージャーが額に青筋を立てて分刻みのスケジュールを調整してくれることは分かっている。
もう五年以上の付き合いだ、誰よりも信頼している。
だが、しなくていい苦労は、誰にもさせたくない。
自分が、与えられた時間の中で最高のものを創り出せばいい話だ。
そんなことを考えていたから、自然と表情が険しくなっていたのだろう。
事務所の同期に声をかけられた。

「……レティー」
「悩み事か? お兄さんに相談してみなさーい」

同期とはいえ、レティシアの方が年齢はひとつ上だ。
けれど、にやり、と音がしそうな笑みを浮かべている猫眼の青年に、ヴァンツァーは苦笑した。

「レティーに話したら、明日の朝には新聞に載ってるよ」
「何だよ、記事になるようなことなのか?」
「そうじゃなくて、それくらいレティーがお喋りだってこと」
「何言ってんだよ。俺はこう見えても口堅いことで有名なんだぜ?」
「よく言うよ」
「ちぇっ。信用ねぇの」

唇を尖らせる姿が幼く見えて、ヴァンツァーはくすくすと笑った。

「何でもないよ。この後のスケジュール考えてただけ」
「あぁ……あのドSマネージャーか。お前、よくついていくね。Mっ気あんじゃねぇの?」
「有能だよ」
「そりゃ間違いねぇけどよ。いくら美人でも、俺はごめんだね」

命がいくつあっても足りねぇ、とぼやくレティシアに、「おや、誰の話だい?」と声がかけられた。
「げっ、ナシアス」、と喉を引き攣らせたレティシアに、美貌のマネージャーはにこやかに言った。

「まぁ、わたしもきみのようにいたぶり甲斐のない男はごめんだけどね。男は素直で可愛いのに限る」
「……ヴァッツの場合、ただの天然だけどな」
「ひどいな。誰が天然だ」
「お前だよ、お前。ほんっとに、黙って座ってれば完璧なのに、何で口開くと上京したての田舎モンみたいになっちゃうのかね」
「……思い切り馬鹿にしてるだろう」
「褒めてんだよ。今時そんな男、絶滅危惧種だぜ?」

明らかに口調が褒めていない。
表情も呆れ返っている。
むっと顔を顰めたヴァンツァーに、ナシアスは「行くよ、坊や」と声をかけた。
ヴァンツァーは拗ねたように唇を尖らせた。

「……もう『坊や』はやめて下さい」
「一人前扱いして欲しいなら、せめて事務所が力で揉み消すくらいの恋愛スキャンダルでも起こして欲しいものだね。本当に、気の毒になるくらい浮いた噂も立たないんだから」
「顔隠せ、って言ったのはナシアスでしょう?」
「恋愛は顔でするものじゃないけどね」
「……顔で男選ぶ人に言われたくないです」
「──へぇ、言うようになったね」

にっこりと微笑むナシアスに、ヴァンツァーはふいっ、と顔を背けた。
何だかよく分からないけれど、むしゃくしゃする。
今日はビアンカの機嫌も悪い。
いつも以上にスタッフを威嚇してフーフー、シャーシャー言っていた。
それをずっと膝の上に抱いて宥めていたのだが、取材とはいえいつもの格好でいるわけにはいかない。
スタイリストの選んだ服に着替えた以上、猫を抱いてはいられない。
名残惜しそうににゃーにゃー鳴いているビアンカを放り出すのは胸が痛んだが、ヴァンツァーは「あとでたくさん遊んであげるから」と言い置いてケージに入れたのだ。

「子どもじゃないと言うなら、取材までにその仏頂面をどうにかしなさい」
「……仕事はします」
「なら結構。──行くよ」

スタスタとスーツに身を包んだ細身のシルエットが遠ざかっていくのに嘆息し、ヴァンツァーは立ち上がった。
そこに、「ヴァッツ」と声がかけられた。
顔を向ければ、金茶色の髪と飴色の瞳の男。
頭の後ろで手を組み、猫のような眼を丸くしてこちらを見ている。

「お前さ、欲求不満?」
「──は?」
「何か、そんな顔してる」
「……どんな顔だよ」
「好きな子でもいんの?」
「……いないよ、そんなの」
「一瞬間があったけど」
「いないってば!」

何なんだ、皆して! と憤りも露わに、ヴァンツァーは取材を受ける応接室へと向かった。
レティシアは、「おっもしれ~」と子どものように瞳を輝かせた。


合宿から帰宅した翌日。
夕食後、自宅で合宿のレポートを書きながら、シェラはテーブルの上に置いた琥珀を眺めていた。
自分で採ったものをシャーミアンやキャリガンと磨き、ヤン教授からもらったものはそのまま持って帰ることにしたから原石のまま。
皆に、不公平だ、と思われたくなかったのだ。
自分は別に良いのだが、ヤン教授がそう思われるのは嫌だった。

「三十の男にしちゃ、可愛いよなぁ」

呟き、他のものよりだいぶ大きな琥珀を突付く。
原石のままのそれは、ちょっと見た感じでは琥珀だとは思えない。
土に覆われたまま、琥珀のごく一部だけが顔を覗かせている。
磨いても良かったのだけれど、何となくそのまま取っておきたい気分だったのだ。
その代わり、自分で採取したもののうち半分はぴかぴかに磨いてきた。
三つほどキャリガンに分けてやったが、それでも手元には七つの琥珀が残った。
その中から三つを、キャリガンたちと一緒に磨いたのだ。
磨いてみると、紅茶色をしたもの、黄金色をしたもの、気泡の入ったものなど様々でとても美しかった。
樹脂が数千万年から数億年の永い時をかけて固まったものだというが、もともとが鉱物ではなく樹であるためか、触るとあたたかみがある。
本物の琥珀を見分ける手段のひとつでもあるのだが、まるでちいさな太陽に触れているようで心が安らぐ。
夜眠る前などに琥珀を軽く握ると、一日の疲れや身体の中の悪いものが浄化されていく気がする。
それはきっと、パワーストーンとしての琥珀の力なのだろう。
また、安らぎを与えてくれるだけではなく勉強のときなどは集中力を高めてくれる。
シェラのように気が散りやすい学生にはもってこいだ。
虫や葉などは入っておらず、学術的な価値はないけれど、それでも自分で採取したということもあって愛着を覚える。

「ネックレスかピアスにでもしようかな」

手先は器用だったし、いつも心配してくれる家族にプレゼントするのもいいかも知れない。

「買うと結構高いからなぁ~」

今回見つけたようにちいさいものならばさして高価ではないが、おそらくヤン教授がくれたものは学生にはおいそれと手が出ないような値段をしているはずだ。

「クッション作って飾っておこう」

ふふふ、と笑みを浮かべ、レポートに戻る。
楽しかった自覚があるからか、もう半分ほど書けている。
ヤン教授のゼミは隔週で二コマ連続の授業なので、再来週のゼミの時間までに書けばいいから気が楽だ。
テーブルの上のカップに手を伸ばし、紅茶が残り少ないことに気づく。

「ん~、休憩、休憩。今度は甘めのミルクティーだ」

よしよし、とカップを抱えてキッチンへ向かう。
ロイヤルミルクティーを作るのは手間がかかるから、それはまた今度。
今飲むのは紅茶にちょこっとミルクを入れた飲み頃ミルクティーだ。
熱湯で淹れた紅茶が、冷たいミルクで飲みやすい温度になるのである。

「へへっ。はちみつ入れちゃおう~」

至福の笑みを浮かべてリビングへ戻ってきたシェラは、ポチッ、とテレビをつけた。
中途半端な時間で、どこもかしこもニュースばかりだ。
大学生としてはこういうものを率先して見ないといけないのだろうが、どうにも食指が動かない。
だが、今回ばかりはちょっと違った。

「──あ、官房長官だ」

シェラにとって現内閣で唯一顔と名前が一致する男が、画面の中で記者を相手に話をしていた。
予算のことだの政府の公式見解だの、そういう難しいことはよく分からない。
それでも、歴史と政治は切り離すことが出来ない。
シェラが多少なりとも政治に興味を持つことが出来るようになったのは、一年生のときに聞いた教養政治学の講義が面白かったからだ。
なぜ史学科の生徒が政治学なのだ、と思わないでもないが、教養科目として必修のその講義は大変な人気だった。
というのも、講義をしていた准教授が若くて長身な上に美形だったからだ。
ルビーのような真っ赤な髪のその青年を見ては、シェラは母親のことを思い出していた。
身長も百九十くらいで、ちょうど同じくらいだ。
顔かたちはまったく似ていないし、母はあの准教授のように控え目で物腰穏やかな人間には程遠いが、生まれて初めて親元を離れた十代の少年を軽いホームシックにかけるには十分だった。
すぐに友達も出来たから、今は過剰に家族を恋しがることもないのだけれど。

「『スマート』って、こういう人のためにある言葉なんだろうなぁ……」

その赤毛の青年が、この官房長官のことも語っていたのを思い出す。
曰く、「『Art』としての『Liberal Arts』の提唱者であり、家柄・見識・カリスマ性のすべてを持つ有史においてもっとも成功しつつある『職業政治家』である」と。

「うちのお父さんも相当な美形だけど、この噴き出すような色気がすごいよなぁ。政治家より、ホストの方が稼げそうなのにな」

シェラが画面の中の官房長官に興味を持ったのは、彼がシェラと同じく白髪に近い銀色の髪をしていたからだ。
最初見たときは勘違いをしていて、「何て素敵なロマンスグレー」と思ったものだ。

「また、トークが巧いんだよ。首相より人気あるもんなぁ」

こりゃ、次期総裁は確実かな、とまったく政治学的な根拠はないのだが、勝手な推測をしてみる。
普段ならばつまらない政治家の出ている番組など見ないが、この官房長官の話は純粋に面白いと思える。

「……ま、難しくて言ってることの三分の一も分からないけど」

そろそろ他の番組が始まるな、と思い、チャンネルを変える。

──ピンポーン

あまり鳴らされることのないインターフォンの音に、「何だ?」と首を傾げた。
そして、「は~い、はい」と言って玄関へ向かう。

──カチャ

「あ……どうも」

ペコリ、と礼儀正しく頭を下げてくる青年に、思わず固まった。




NEXT

ページトップボタン