すらりと伸びた長身、持て余し気味にも見える長い四肢、短く切られた金髪は陽にきらきらと煌き、褐色の肌と相まってその人を金細工の人形のように見せていた。
碧眼は長い睫に縁取られ、通った鼻梁と形の良い唇はこれ以上ない、という配置の神の造形。
デニムにダウンジャケットと至ってラフな格好だが、雑誌から抜け出したスーパーモデルさながらの美貌の主だ。
街角のベーカリーの煉瓦壁に寄り掛かっているその姿を、通りすがりにちらちらと見ている人は少なくない。
中性的、というよりは男装の麗人然としたその青年に集まる視線は、正しく男女半々ずつであった。
その海と空が溶け合う場所と同じ色彩をした瞳がふと持ち上がり──目にした人の大半が息を止めるほどに美しい笑みを浮かべた。
「──ごめん、待った?!」
その人に向かって息を切らせて走ってきた少女に目を向けたギャラリーは、今度は目玉が飛び出しそうなくらいに驚いた。
黒髪に藍色の瞳の、とびきりの美少女だ。
抜けるように白い肌は見るからにやわらかそうで、走ってきたせいか頬が上気しているのが可愛らしい。
頭ひとつ分近く背の高い金色の麗人は、にっこり笑って首を振った。
「──ソナタちゃん、今日もちょー美骨!!」
きゃーっ、と歓声を上げて少女の身体を抱きしめると、当の少女はおかしそうに笑った。
「ライアン、骨格はそうそう変わらないから」
「無茶なことはしないでね。この骨格、人類遺産だから」
「大袈裟だなぁ」
「筋肉も脂肪も理想的なつき方してるし」
「……胸がちょっと足りないと思うの」
年頃の娘さんらしく、胸元を押さえてしょんぼりする様子に、ライアンはにっこりと微笑んだ。
「ん~、でも、形綺麗だよ」
「つまんなくない?」
「全然。だってひと目惚れだもん」
ふふ~ん、と笑って尻尾をぶんぶん振る様子に、ソナタはよしよし、と頭を撫でてやった。
嬉しそうにされるがままになっている青年に向けられる視線の中には、『羨ましい!』、『俺もやってくれ!』、『男か? それとも女どうしか?!』、『どっちでもいいけどふたりともちょー好み!』という男性陣からの熱い視線も含まれている。
その視線はどこにいてもついて回るだろうが、ふたりはとりあえずその場を離れることにした。
目的地へはバスと徒歩で向かう。
エア・カーを使えば良さそうなものだが、ソナタはもうすぐ十六になるけれど、まだ免許が取れる年齢ではないし、肝心のライアンは、
「おれ、機械と相性悪いんだよねー」
と、免許は持っているが出来れば運転はしたくないという。
自動操縦機能のあるエア・カーとの相性どうので運転出来ないという人間に初めて会ったソナタだったが、歩くのは好きだし、バスでの移動も苦ではなく、何よりそんな珍しい体質をしているライアンが面白いから出かけるときは大抵この手段で行くことにしている。
付き合い始めてふた月。
蜜月真っ盛りの恋人たちのはずなのだが、道中もやはり話題は胸のことだった。
「ちゃんと大胸筋鍛えてるから土台は出来てるし……どうしても気になるなら、バストアップのマッサージ、教えようか?」
別にそのままでもいいと思うけど、と言う青年に、少女は眼を爛々と光らせてがっつり食いついた。
「──教えて! ってか、何で今まで教えてくれなかったの?!」
「必要ないよ。そのままで綺麗なんだから」
「やぁだ! せめてもうちょっとおっきいのがいい!」
「何で?」
きょとん、として首を傾げる青年。
ソナタにとってはこの辺りが、いくら女性っぽく見えてもライアンは男なのだ、と思う瞬間である。
少女はむすっ、として唇を尖らせた。
「……だって、絶対触ってもつまんないもん……」
微かに頬を染めて珍しく小声で喋る少女に、ライアンは首を捻ってしばらく考えていたが、やがて気づいたように手を打った。
「──あ、おれのこと?」
「声大きい!!」
それに関してはどっちもどっちなのだが、ライアンはあはは、と明るく笑った。
「え~、それこそ気にしなくていいのになぁ。おれ、あんまり大きいの好きじゃないし」
「──え?! 男の人ってみんな大きいのがいいんじゃないの?!」
「……それ、どこで仕入れたネタかな」
そんなことないよ、と苦笑する青年に、ソナタは「だって学校で」と呟いた。
彼氏がいる子もそうでない子も、高校生くらいになれば会話の中にそういう話題も出る。
きっちり両親に似て膨らみのあまりない胸がコンプレックスのソナタにとって、その手の話題は非常に気になるところなのである。
しかも、初・彼氏が出来たとあってはなおさらだ。
「一番身近なところに、いい見本がいると思うんだけど」
「だってパパは『シェラ』なら何でもいいんだもん。シェラが男でも女でも、中身がシェラならそれでいいの」
「うん。おれも、中身がソナタちゃんならそれでいい」
「……ライアンの場合の『中身』って、骨格とか筋肉なんだよね」
「ん? うん。おれ、何か変なこと言ってる?」
それはいつものことです、と言わないだけ『あー、私ってばオトナになった』と思うソナタなのである。
バスに揺られながら、ソナタはちらっ、と青年を見上げて訊いてみた。
「……マッサージってことは、やっぱり触ってもらったりすると大きくなるっていうのは、本当なの?」
「ん~、大胸筋が土台だっていう話はしたよね? で、マッサージをすると、まず血行が良くなる。大胸筋のマッサージをして血行を良くすると、ホルモンの分泌が促進されて、新陳代謝も良くなるんだ。そうすると、バストに張りが出てくる。更に、バストの九十%は脂肪であとの十%は乳腺なんだけど、その乳腺を刺激してあげることで発達を促すんだ」
「ふぅん。じゃあ、いっぱい触ってもらった方がいいよ、って友達が言ってたのは本当?」
ライアンは首を振った。
「やりすぎは細胞の成長を妨げるから、過度なマッサージはオススメ出来ないかな」
何事も適度にね、と綺麗な顔で微笑んでいるのは青年だというのに、女どうしが豊胸の話題で盛り上がっているようにしか見えない。
「そっかぁ……。シェラの胸、膨らんでる気がしたから、いっぱい触ってもらうといいのかと思ってた」
自分の胸に手を当てて一緒に風呂に入ったときのことを思い出す少女に、ライアンは「それもあるだろうけど」と前置きした。
「たぶん、一番は女性ホルモンじゃないかな?」
「ホルモン?」
「うん。たぶん、シェラさんはパパさんのことがすごく好きなんだと思うな。で、女性ホルモンの分泌が活発だから、男性でも多少は膨らむのかも」
それには納得したソナタである。
何だかんだ言って、シェラは父のことが好きなのだ──ちゃんと、顔以外も。
父の傍にいるシェラはいくつになっても少女のようで、でも、大人の成熟した色気のようなものもあって、本当に可愛くて綺麗なのだ。
もちろん、自分たちに微笑んでくれるシェラは大好きだけど、そういう聖母のような笑顔とは別の顔も見られる父のことがちょっぴり羨ましくなったりもする。
「じゃあ、私もまだまだこれから大きくなるかも、ってことか」
「うん、そうだね」
分かってるのか分かってないのか、いつもにこにこしている美女のような美青年に向かって、ソナタはバスを降りたところで言ってみた。
「……ライアンも、してくれる?」
少し声のトーンを落とした台詞に、青年はきょとん、とした顔になった後、にっこり笑った。
「とりあえず、十六になったらね」
おれ今でも犯罪者だし、と笑う青年は、ファロット邸に行くたびに双子の片割れに『この犯罪者が!』という視線で睨まれているのを、多少は気にしているらしい。
それで気を悪くしないのだから、心が広いというか何というか。
「ライアン、二十歳だっけ?」
「うん、そう。学生でも、成人は成人だからねぇ」
「もうちょっとで誕生日だから」
そう言う少女に、青年はくすくすと綺麗な笑顔を向けた。
「十六になったからって、すぐにどうこうするつもりはないよ。おれ、触るより見てる方が好きだし」
「……それはそれで、ちょっと複雑です」
「結婚する前にそんなことしたら、パパさんとお兄ちゃんに殴られそうだしなぁ」
殴られるだけで済めばいいが、とソナタはこっそり思った。
シェラは何だかんだ言って女どうし(?)分かってくれると思うのだが、男ふたりに関しては刃傷沙汰にまで持ち込みかねない。
考えてみて間違いなさそうなだけに、ソナタは内心で嘆息した。
しかも、嫁に出してくれるかどうかも問題だ。
「まぁ、いざとなったら、おれがお婿さんになればいいんだけどさ」
「──へ?」
何気なく、本当にさらりと口にされた台詞に、ソナタは立ち止まってぽかん、と口を開けた。
当のライアンは「どうしたの?」と不思議そうな顔をしているが、それはこっちの台詞である。
「……お婿さん?」
ライアンが? と呟けば、「うん、あ、ごめん。嫌だった?」と言われ、ぶんぶん首を振った。
「びっくりしたぁ……」
「何で?」
「だって、結婚とかお婿さんとか」
「やっぱりおれ、変なこと言ってる?」
これにも首を振ったソナタであった。
「……そんな風に、私のこと考えてくれてるとは思わなくて……」
やはり『よく分からない』という顔をするライアンに、ソナタは「えぇっと」と頬を染めてはにかむように笑った。
嬉しくて、ちょっと気恥ずかしい。
初めて出来た恋人が、一時的な付き合いではなく、将来のことも考えていてくれることが、素直に嬉しい。
「そんなにたくさん、私と一緒にいてくれるのかなぁ、って」
それに対して、ライアンはいつもより少し真剣な瞳をして、隣を歩くソナタと手を繋いだ。
「うん。一緒にいたいね」
美形は見慣れているし、ドラマの中で展開されるような台詞だって毎日のように家で耳にしているソナタだったが、これにはドキリとした。
いや、本当にドキドキする。
心臓はおかしな動き方をしているし、頬も熱い。
見上げた碧い瞳に吸い込まれそうになる。
──あぁ、私、この人のことがすごく好きなんだなぁ……。
頭の片隅で、ソナタはそんな風に思った。
「でも、お婿さんになってお家は大丈夫なの?」
「うん、平気。おれ、姉さん三人いるし、みんなお婿さんもらって家にいるから」
「そうなんだ」
「三人とも母さん似で男前だから、昔からよくおれだけ女の子だと思われてたんだよねぇ」
「会ってみたいなぁ」
「うん、今度ね。両親も、ソナタちゃんに会いたがってるし」
家族にも自分のことを話してくれているのか、とやっぱり嬉しくなったソナタである。
「──ソナタじゃないか」
恋人に微笑を返し、きゅっと手を握ったところで声を掛けられ、ソナタはそちらに目を遣った。
「──ジャスミン!」
周囲から頭ひとつ分とび抜けて大きな女性だから、いやでも目立つ。
今日は見知らぬ女性と一緒だが、軽く会釈をして微笑み掛けてきたその美しい女性にソナタはピンときた。
大好きなシェラとは少し趣の違う菫の瞳の持ち主だ。
平日とはいえ、人通りの多い場所を素顔で歩くことは憚られる大物だから、今日も誰かを演じているのだろう。
「久しぶり。ジャスミンもデート?」
「──も、ということは、そちらがシェラの話していた恋人か」
「シェラってばそんなことまでジャスミンに報告してるの?」
「そう言うな。余程嬉しかったんだろうよ──だが、私が聞いていた話では、男性ということだったが?」
その台詞に、ソナタはくすくすと笑った。
「男の人だよ。すごい美人だから、女の人によく間違えられるけど」
ね、と隣に目を向ければ、何だか碧の瞳が熱っぽく潤んで頬が上気している。
これはもしや、と思ったソナタの耳に、
「──女神様だ!」
という歓喜の声が届き、繋いでいた手が離れてしまった。
それはちょっと残念に思ったソナタだったけれど、ライアンから最大の喜びを取り上げることは出来ない。
苦笑しているソナタの目の前で、ライアンは自分よりも大きな女性に抱きつかんばかりの勢いで猛烈なアプローチをかけていた。
「何て綺麗な骨格! 質の良い筋肉に、適度な脂肪……うわぁ、戦う女神様だ!」
「……ソナタ?」
「美大の学生で、彫刻を専攻してるの。趣味は人体観察」
ソナタの色々端折った人物紹介で、珍しい生き物を見るような顔をしていた長身の女性は一応の納得を見せたようだった──この人も、あまり細かいことは気にしない性格をしているのだ。
「魔女だと呼ばれたことならあるが、女神というのはちょっとないな。何だかこそばゆいぞ」
「あら。『戦女神』なんて、戦闘機乗りのあなたにぴったりじゃないの」
コロコロと鈴を転がすような声で喋る女性に目を向けたライアンは、こちらにも満面の笑みを見せた。
そこには、紛れもなく賞賛の色があった。
「あなたの身体も素晴らしい。おれ、あなたくらい自分の身体に気を使っている人には数えるほどしか会ったことがありません」
何か身体が資本のお仕事をされてらっしゃるんですか? と訊ねてくる美女のような美青年に、菫の瞳をした女性は穏やかな笑みを浮かべてみせた。
「あら。好きな人のためには、女はいくつになっても美しくありたいと思うものよ?」
と、ジャスミンの腕に自分のそれを絡ませた。
でも、と悪戯っぽく瞳を煌かせる。
「いい眼をしているわ。宇宙船が買えるくらいのお金はかけているもの」
「でしょうね。失礼ですが、そのお歳でその肉体を保てるのはもう奇跡です」
これにはドキッとしたソナタとジャスミンである。
彼女の前で年齢の話は禁句だ、と思ったが、意外にも当の女性はにこにこと愛想良く笑っている。
「いくつに見えるかしら」
ジンジャー、と嗜める口調になったジャスミンだったが、ライアンはちょっと首を傾げた。
「外見的なものですか?」
「『そのお歳で』っていう方を伺いたいわね」
彼にしては珍しいことだが、少し迷って、ライアンはジンジャーに耳打ちした。
途端に菫の瞳が丸くなり、大袈裟にため息が零された。
「そこまでぴったり当てられると、努力の甲斐がない気がしてくるわ」
「とんでもない。本当に、お世辞ではなく奇跡だと思いますよ」
「ありがとう。妖怪だの何だの言われることはあるけれど、そういう言い方なら悪い気はしないわね」
その受け答えに、ご機嫌を損ねることはなかったようだ、と思いソナタもジャスミンもほっとして胸を撫で下ろした。
そして、感心した表情になったジャスミンである。
「しかし、きみは外見だけで彼女の年齢を当てられるのか」
「職業病っていうか……骨と筋肉に関しては服の上からでもかなり細かいことまで分かりますね」
「ふむ。私の夫の眼と似たようなものか」
「でも、ライアンの眼は生身だよ。私の骨格にひと目惚れした、って声掛けられたのはシェラから聞いた?」
「いや。ナンパか」
「ん~、ちょっと違うかな。お持ち帰りしたのはソナタの方だから」
ね~、と笑い合う若者たちに、年長者ふたりは「おやおや」という表情になった。
ジンジャーはちょっと気の毒がるような表情でソナタに訊ねた。
「出逢ったその日に家に連れて行ったんじゃ、カノンちゃんやヴァンツァーは驚いたんじゃない?」
「カノンは顎外れそうなくらい驚いてた。パパはライアンの顔見た瞬間いきなり『許さん』とか言ってたけど」
あはは、と笑う少女に、青年の方もそのときのことを思い出してかおかしそうに笑っている。
少女の父と兄のことをよく知っているだけに、年長ふたりは顔を見合わせると、ポン、と励ますようにしてライアンの肩を叩いた。
「青年。いらぬ苦労が多いだろうが、ソナタはいい子だ。大事にしてやってくれると嬉しい」
「男ふたりを味方につけるのは難しいから、まずはシェラを攻略なさい。風が吹けば草木も靡くわ」
何だか年若く初々しいカップルに贈るにしては若干苦いものも含まれている台詞だったが、ものすごい含蓄のあるありがたい説法のようにも聞こえる。
金髪美人な青年は、心得たようににっこりと笑って頷いた。
「大丈夫よ。ライアンの実家は農園と牧場を営んでて、この前お肉やお野菜送って下さったの。それがすごく美味しくて、シェラなんか目ぇきらきらさせて喜んでたわ。それに、ライアンは美味しいものに目がないから、シェラとはとっても仲良しなのよ」
「それは良かった。姑を攻略すれば天下を取ったようなものだからな。所詮、男は女の尻に敷かれている生き物だ」
「ジャスミンのところも?」
「うちはな、あの男が上手に『尻に敷かれるフリ』をしてくれているのさ」
にやり、と金色に変わった瞳を煌かせる女性に、ソナタは「さすがケリー」と感心した。
是非とも父に見習って欲しいところである。
妻を深く愛しているのは分かるのだが、父の場合喜んで自分から尻に敷かれている節がある。
黙って座っていれば超絶美形で非の打ち所のない男なはずなのに、イマイチ迫力に欠けるのはそれが原因だろう。
「──おっと。悪いな。デートの邪魔をしてしまったか」
「ううん。ライアン喜んでるから平気」
「これからどこかに行くの?」
もう、ほとんど日は暮れかかっている。
この青年が無茶なことはしないだろうということは分かる年長者たちだったが、あまり遅くなるとシェラがやきもきするだろう。
その表情を見て取ったのか、ライアンが答える。
「すぐそこに、知り合いの彫金師が店を出してるんです。すごく腕のいい人で、人に合わせて細工してくれるから、ソナタちゃん連れて行こうと思って」
「あら、素敵。もしかして、パットのお店かしら」
「──はい! ご存知ですか?」
「私も、昔からのちょっとした知り合いなの。彼は私が知る中でも五本の指に入る職人よ」
「そんなにか」
訊ねてくるジャスミンに、ジンジャーは美しい笑みを浮かべた。
「ふむ。青年たち。邪魔をして悪いんだが、そこに私たちも行って構わないか?」
別にいいけど、と不思議そうに首を傾げるソナタに、ジャスミンはわざとらしく肩をすくめた。
「実は、よんどころない事情があって、今日はジンジャーとの待ち合わせに遅刻してしまったんだ。で、さっきから彼女の機嫌があまり麗しくない」
「あら。別に怒ってなくてよ? でも、プレゼントしてくれるっていうなら、ありがたくもらっておくけど」
「──と、いうわけなんだ。彼女の機嫌を損ねるのは、非常にありがたくない」
ジャスミンは大柄な女性だったが、今の様子は恋人に拗ねられてちいさくなっている男のように見えてしまう。
ソナタはくすくすと笑ってライアンを見上げた。
ライアンは「じゃあ皆で行きましょう」と笑顔を見せた。
そうして、目的地へと非常にひと目をひく四人組みで歩き出したのである。
「あ、そうだ。それこそ、もしお邪魔でなかったら、今日うちに来たら? きっとシェラ喜ぶから」
「そういえば、最近会ってなかったな」
「相変わらず可愛いよ」
「だろうな。好きな男の傍にいる女とは、そういうものだ」
まるで『私が良い例だ』とでも言いたげにふんぞり返っているジャスミンに、ジンジャーは言った。
「じゃあ、ケリーも呼んであげたら?」
「そうするか」
構わないかな、と訊ねてくるジャスミンに、ソナタは元気良く頷いた。
今日は人がたくさん、と喜ぶソナタに、ライアンは「良かったね」と笑顔を見せた。
「今度はカノンの恋人も見てみたいな」
祖母にでもなった気分でいるのか、ジャスミンがそんなことを言い出した。
「かっこいい子だよ。ジャスミンと同じくらい身長あるし」
「ほう。それは余計に楽しみだ」
「ちょっと雰囲気がパパに似てる」
この台詞に、年長の女性ふたりは微妙な顔つきになった。
その表情が言わんとしていることを正確に汲み取ったソナタは、「大丈夫」と明るく笑ったものである。
「キニアンは、『尻に敷かれてるフリ』が出来るタイプだから。我が儘放題のカノンなんて絶対他では見られないし、ちょー可愛いの。カノンは女王様なんだってー」
と朗らかに言う少女は、はっとしたようにジャスミンを見上げた。
何だ、と視線で問うてくる女性に、ソナタは真剣な表情をして訊いたのである。
「ジャスミン────どうやったら、そんなに胸が大きくなったの?」
END.