そんなことを考えながら髪を乾かして寝室に戻ると、シェラはベッドヘッドに背を預けた状態で眠り掛けていた。
横になって寝ればいいものを、と思い、軽く抱き上げて横たえてやる。
と、その振動で覚醒したシェラが、手を伸ばして黒髪に触れた。
「よしよし」
満足そうな笑みが浮かぶ。
「……」
本当に頭を撫でられ、ベッドに乗ることを忘れたヴァンツァーに、シェラは追い討ちを掛けた。
「ほらほら。お前の寝床はここだぞ」
ポンポンと自分の横を叩く。
「……俺は犬猫か?」
半ば意識がないシェラに向かって真面目に訊くのもどうかと思うが、口をついて出てしまったのだから仕方ない。
「ひとりで寝ていて寂しかっただろう? 今日は私が腕枕をしてやろう」
言葉だけはスラスラと出てくるようで、シェラはベッドに横になったヴァンツァーの頭をぐい、っと自分の腕に抱え込んだ。
「……」
風呂上りなのと眠いのとで、シェラの体温はいつもより高い。
そんな腕に抱えられていることが妙に心地良い。
「まずいな……」
ぽつりとヴァンツァーは呟いた。
「ん……?」
もう夢の住人と化しているくせに、生返事だけは返してくる相手の腰に腕を回し、目を閉じた。
「……よしよし、いい子だ……」
ポンポンと頭を叩いてくる手の感触に、低く笑いを漏らす。
──今夜は、よく眠れそうだ。
それは、どちらの思惑だったか────。
END.